運送業の経営の教科書|運送業を始めるときに必要な資金や資格について解説
運送業は経済活動を支える貴重な社会インフラです。事業者として起業したいという人は数多くいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし実際問題として、起業するとなれば手続きが必要ですし、経営を続けていくには相応の才覚が求められるのではないかという不安がつきまといますよね。
運送業を始めたいけれど、どうすれば設立や経営をうまくやれるのかわからない……そんな方のために、本記事では運送業の始め方から経営のアドバイスまで、詳しく紹介していきます。
Contents
運送会社とは?
まずは全ての前提として、「運送会社」の定義を確認しておきましょう。
- 運送会社とは何を行うことを業務とする会社なのか
- 運送会社と物流会社という一見似通った概念はどのような違いを持っているのか
その2点について解説します。
運送会社ってどんな会社?
運送会社とは具体的に何をする会社なのでしょうか。
一言で説明するならば、運輸業を営む会社のうち、貨物輸送を行っている会社ということになるでしょう。さらに言えば、一般的に運送会社と聞いて想像するのは陸運、特にトラック輸送を行う会社であると思われます。
したがって、運送会社というのは実質的には「トラックを使って貨物運送を行う会社」という意味であると考えてしまって問題ないでしょう。
運送会社と物流会社の違い
ところで、トラックを使って貨物運送を行うといえば、「物流会社」という呼称で呼ばれる企業も当てはまるはずです。運送会社と物流会社、この2つの用語にはどのようなニュアンスの違いがあるのでしょうか。
物流会社というと、近年では鉄道や船舶を使ったモーダルシフトに力を入れている印象がありますよね。このほか、倉庫での保管や流通加工を請け負っている会社も数多くあります。
このことから、
- 運送会社・・・単にトラックで荷物を運ぶ会社
- 物流会社・・・総合的に物流の業務を担う会社
であると考えることができます。物流会社のほうが規模が大きいイメージですね。
また、少し変わった解釈としては、「物流業務を受託し、法の範囲内で運営する中でいかに荷主に儲けてもらうかを考えられるのが物流会社」だという主張もあります。
荷主よりも力が弱い運送会社に対して、荷主と対等のパートナーシップを結べるのが物流会社、というわけです。
運送会社を設立するには
運送会社の定義は把握できましたね。物流会社を作るとなると設備を整えるのが大変そうですが、運送会社であれば小規模でも業務を営むことができそうです。
そこで次は、運送会社を設立するための条件を見ていくことにしましょう。
必要なお金
- 営業所となる物件を借りる。
- トラックを購入する。
- ドライバーや事務員を雇う。
どれ一つとっても、まずお金がないことには手の打ちようがありません。運送会社の設立のためにはどのくらいのお金が必要になるのでしょうか。必要となるお金は2種類に分けられます。
- 会社を設立するための資本金
- 業務を開始するために必要となる開業資金
まず資本金についてですが、こちらはいくらでも構いません。現在の制度ではたとえ資本金1円であっても起業できるからです(もちろんそれは制度上の話で、実際に資本金1円で運送会社を設立する起業家はいませんが)。
会社の資本金は300万円~500万円が平均的な相場と言われていますから、その範囲で考えておくのがよいでしょう。
開業資金に関しては、設立しようとしている会社の規模によって変わってきます。
- トラックを何台購入するのか
- 新車で買うのか中古車を探すのか
- 営業所として借りる物件の賃料はいくらか
といった条件で変動するわけですね。範囲としては600万円~1600万円と言われています。
必要な資格
次に、運送会社を作る際に必ず求められる資格についてです。
運送業を営むためには、運行管理者の資格を持った人が少なくとも1人はいなければなりません。少なくとも1人というのは、営業所の規模、つまり用意するトラックの数によって必要な運行管理者の数も変わってくるからです。
また、必ずしも資格が必要というわけではないのですが、整備管理者も必要です。こちらは運送会社での整備管理が2年あれば整備管理者になることができます。
もちろん、これらの資格を社長本人が持っている必要はありません。資格を有している社員を法律上必要な人数確保しなければならない、という意味です。
営業所と休憩所と車庫が必要
トラックとドライバーを揃えても、拠点がなくては仕事のしようがありませんよね。というわけで、
- 営業所
- 休憩所
- 車庫
が必要になります。まず営業所と休憩所ですが、どんな物件でもいいというわけではありません。
- 車庫から直線距離で10km以内にあること
- 適切な使用権限があると証明できること
- 建築基準法や消防法に抵触しないこと
などの要件を満たした物件のみ、営業所や休憩所として使用できます。
次に車庫です。こちらに求められる条件は営業所と比べれば緩いですが、根本的な話として、使用するトラックが収容できる広さでなくてはなりません。
最低でも230㎡、大型トラックを使うのであれば300㎡は必要になってくるでしょう。また車庫に関しては、出入口に面した道路の幅が6m以上であることも条件とされています。
必要な車両数
トラックが1台でもあれば事業を開始できるのかといえば、そういうわけにもいきません。運送業を営むためには、最低でも5台のトラックを揃えなければならないと定められています。
ただし、トラックが全て中型車以上でなくとも構いません。軽トラックはもちろん、車検証上の用途欄に「貨物」と記載されている車種でさえあれば、たとえばハイエースなどの小型車であっても5台のうちにカウントできます。
必要なドライバーの人数
トラックが5台必要ということは、法制度の主旨としては「少なくとも5台以上のトラックを運用できないと、運送会社として認めることはできない」ということになります。
自動運転の研究も盛んではありますが、少なくとも2019年の時点では、トラックを運用するにはドライバーがいなければなりませんよね。
というわけで、5台のトラックが必要である以上、ドライバーも最低5人は必要ということになります。この5人の中には社長自らが含まれていても構いませんし、派遣社員が含まれていても構いません。
とにかくトラックの車種に対応する免許を所持している人を、必要な数だけ揃えてください。
運送業は赤字になる?うまく経営する方法
無事に運送会社を設立できても、そこはまだスタート地点に過ぎません。経営をしっかり行って始業を回していくことこそが本番なのです。
運送業は資金繰りが苦しくなることが多いと言われます。うまく経営するにはどういったことに気をつければよいのでしょうか。
再配達などが原因で効率が悪い
運送業の利益が伸びない原因の一つに、業務効率が悪いという点が挙げられます。
2017年頃、Amazonとヤマト運輸が運賃にまつわる交渉を繰り広げていた時期、運送業界を取り巻く問題点として、再配達の多さが様々なメディアで報じられていました。
荷受人が不在のために荷物を届けることができず、持ち戻って後日再配達に向かう、といったことが頻発していたのです。
また、運送業界に特有の問題として、荷待ちの時間が発生することが指摘されています。
積み込みや積み卸しのできる時間が決まっている現場があったり、オペレーターの手が空くまで待機を強いられたりと、待ち時間の発生する場面が多いのです。
こうしたことが原因で業務効率が上がらず、ドライバーを長時間拘束することによって残業代などの手当がかさむことになり、運送会社の経営が圧迫されるというパターンが多いようです。
人手不足
業界の大きな課題としてはもう一つ、人手不足が挙げられます。
- 少子高齢化によってドライバーのなり手は年々減少
- 既存のドライバーは加齢によって体力が衰えていく
という状況が進行しているのです。運送業は労働集約型の産業ですから、ドライバーなしには事業が成り立ちません。
近年は「人手不足倒産」という言葉を耳にする機会が多くなりました。運送会社はまさしくその危機に直面している代表例だと言えるでしょう。
対策方法は?
もちろん課題がはっきりしている以上、対策方法も見えています。
業務効率に関しては運送会社の外部に原因があるため、運送会社ではどうしようもないことも多いのですが、最近では宅配ボックスの設置の支援などによって再配達を減らす取り組みが為されています。
また人材の確保に関しては、運賃を上げてドライバーの待遇を改善できる余地を作ったり、休みの体制や福利厚生を整えて若い世代を取り込んだりといった工夫が必要となってくるでしょう。
まとめ
皆さん、いかがでしたか?
運送会社を設立する方法、そして経営していくうえで特に注意すべきことについて理解が深まったのではないでしょうか。
起業や経営において超えるべきハードルは決して低いものではありませんが、どこに気をつけるべきかわかっていれば対策も打てるというもの。
この記事の内容を参考にして、自分の会社を切り盛りしていってくださいましたら幸いです。