ヤマト運輸の平均残業時間はどのくらい?長時間労働問題を受けての改善状況は?
ヤマト運輸は残業時間が長くて大変!という噂を聞いたことがある人も多いと思います。Amazonとの運賃交渉はニュースでも大々的に報じられていましたから、記憶に新しいという方もいらっしゃることでしょう。
この記事では、ヤマト運輸の残業時間が実際にはどのくらいあるのか、また残業を減らすためにヤマト運輸がどのような対策を行っているのかなどについて詳しく紹介します。
Contents
ヤマト運輸の残業時間はどのくらい?
まず、ヤマト運輸では現状どのくらいの残業が行われているのか確かめてみましょう。
基本的に、ヤマト運輸の勤務時間は8時から17時までと決められています。このほか早番、遅番というのもありますが、これらは交代制なので、少なくとも制度の上では過度な超勤が発生しないようになっていると言えるでしょう。
残業については36協定が結ばれています。36協定とは、労働基準法36条に基づいて労使間で結ばれる協定のこと。
労基法では一日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させてはならないと定められているのですが、36協定を締結することで、法定時間外の労働をさせることが可能になるのです。
ただし、36協定を結んだからといって無制限に時間外労働をさせてよくなるわけではなく、上限は原則的に月45時間までと決められています。
突発的な都合によってどうしても45時間に収まらないとき、上限を超えて時間外労働を課すためには、特別条項つきの36協定を締結する必要があります。
運送会社はこの特別条項つきの36協定を結んでいるケースが多く、臨時的に長時間の残業が発生することがあります。ヤマト運輸の場合、労使間の協定で月95時間までと定められているとのことです。
特に繁忙期においては物量が激増するため、始業時間前に出社して21時過ぎまで業務を行うなど、残業が多くなりがちです。
ヤマト運輸の残業時間が長くなる理由
ヤマト運輸は宅配業界のトップランナーと言われているだけのことはあり、非常に質の高いサービスを提供しています。
時間指定や再配達といった一般的な運送会社でも行われていることはもちろん、LINEを用いて受取人に到着時間を事前連絡するなど、顧客が「こんなサービスがあれば便利だ」と考えることの実現に余念がありません。
しかし、そうしたサービスを実際に行うのは、やはり直接配送に向かうドライバーです。
顧客に対してきめ細かなサービスを提供すればするほど、ドライバーのこなさなければならない業務は多くなります。ということは、そのぶんだけ1軒あたりの配送時間が延びることになるのです。
たしかにヤマト運輸のサービスレベルは競合他社と比べて高い水準にあると言えるでしょう。ですが、まさにそのことがドライバーなどの社員にしわ寄せが行き、結果として残業時間の長大化に繋がっていることも事実なのです。
顧客満足と従業員の負担軽減はトレードオフの関係にある、と言えるかもしれません。
残業時間が長引くメリットとデメリット
たいていの人は残業と聞くと嫌な顔をすることでしょうが、一部には望んで残業をしたがる人もいます。その理由は、もちろん残業代。超勤手当とも言いますね。
時間外労働を行うと、当然ながら定時を超えて働いたぶんの残業代がつきます。しかもその額は、時間あたりに換算すると通常の給料よりも高くなります。そのため、残業したほうが収入が増えるとして歓迎する人がいるのです。
しかし、これは危険な考え方です。そもそも残業とは定時までの業務を終えてからさらに労働するものであるため、過労死に繋がりやすくなるのです。
また、プライベートの時間を労働に割くことになるわけですから、体力面だけではなく精神面でも疲弊していきます。長時間労働が原因でうつ病を発症した例は枚挙にいとまがありません。
ヤマト運輸の仕事は決して楽ではありませんが、その給料は業務内容に見合ったもの。もしそれ以上の収入を望むのであれば、自ら副業をはじめて稼ぐほうが健全です。
無駄な残業はくれぐれもしないように心がけましょう。
ヤマト運輸は過去に残業時間を改ざんしていた
ヤマト運輸は過去、長時間労働について問題視され、ニュースで報じられたことがあります。その際に従業員の残業時間を改ざんしていたことが明らかになり、世間を騒がせました。
あるドライバーは、荷物の積み込みのために朝早く出社し、夜遅くまで残業していたと証言しています。にもかかわらず、上司からは「始業時間前に出社してもタイムカードを打刻しないように」と言い渡されていたというのです。
そのうえ、ろくに取れない昼休みの時間だけはしっかり労働時間から引かれていたとのこと。
こうした事実上の残業代の未払いが発覚したため、ヤマト運輸は2年分のタイムカードと勤怠リストを従業員に配りました。
タイムカードとリストを照らし合わせて未払い分があれば一日ごとに修正し、相違がなくなった段階で了承した旨のサインを書いて会社側に提出させるという方策です。
ところがこのときも、上司からは何の説明もなく、忙しさのあまり「勤怠リストの請求をする暇もない」という状態だったというのです。こうした会社側の対応が災いし、ネットに「未払い残業代を1円ももらわない旨の誓約書を書かされた」という告発が載る事態にまで発展しました。
また別のドライバーからも、「早出やサービス残業が状態化していた」という証言が出ています。そのことを理由にこの方はヤマト運輸を退職したとのこと。
当時はAmazonに代表されるネット通販の急成長の影響があって、ドライバーのサービス残業時間は月に60~80時間にも達していたのだそうです。
これらの背景には、荷物が増えたにもかかわらず人員を現状のまま維持しようとした会社の姿勢がありました。上からの要求を現場の努力でカバーしてきたことはヤマト運輸の成長を支えた一要因でしたが、それが限界に達したのが当時の残業代未払い問題だったのです。
未払い残業代は既に支払われている
前述の問題が明らかになり、ヤマト運輸は労働基準法に違反しているとして、労働基準監督署から是正勧告を言い渡されました。
このことを受けて、2017年、グループ社員約8万2千人を対象として社内調査を実施。残業代の未払いが確認された4万7千人に対して190億円を支払いました。
さらにその後も調査を進め、追加で40億円を計上。同年7月から順次支払われ、現在では既に支払いを完了しているということです。
ちなみに、労働基準監督署が発表したデータによると、2017年に支払われた未払い残業代は日本の会社全体でおよそ446億4千万円でした。半分以上をヤマト運輸一社が占めていたことになりますから驚きですね。
残業時間を少なくするためにヤマト運輸が行っている対策
政府による働き方改革の後押しもあって、ヤマト運輸は残業時間そのものを少なくするための対策にも積極的に取り組んでいます。
Amazonとの運賃交渉は様々なメディアで大々的に報じられていましたから、覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。もちろんAmazonに限らず運賃の値上げは行われており、それはヤマト運輸のみならず佐川急便など競合他社にも波及しました。
どんな会社でも宅配を使う機会はあるでしょうから、運賃が高くなったと聞いてピンとくる方は多いかもしれません。そして、値上げができれば他の施策も取れるようになってきます。
つまり、ドライバーの増員です。ヤマト運輸は2017年に発表した中期経営計画の中で、ドライバーの採用を増やすことを掲げました。
1人あたりの負担を減らして残業時間を削減しようという狙いで、中期経営計画の文言によれば、正社員の残業時間を半分にするのが目標だそうです。
具体的な動きとしては、契約社員ドライバーを1万人増員しています。このドライバーは15時から21時までの夜間配送を専門としており、こうした特化型のドライバーを抱えることで、正社員ドライバーを早く帰宅させることができるようになります。
また、他の方策として、宅配ロッカーやコンビニ受取システムを拡大する予定もあります。受取人が留守の場合でも荷物を受け取れるような仕組みを整えることで、再配達を防ぐのが目的。
かねてから再配達は運送会社にとって頭の痛い問題でしたから、これもやはり同業他社への広がりが期待されています。
もちろん、改革のきっかけとなった未払い残業代の調査は引き続き行われています。同時にタイムカードの適正化も行われ、IT技術を駆使した改善が進められているそうです。
このように、ヤマト運輸は現在、体制の見直しに会社をあげて取り組んでいる最中なのです。
残業時間の縮小にはまだ至っていない面もある
ただし、上記のような改善策は現在進められている途中であり、まだその効果がグループ全体に波及したわけではありません。一部の営業所では、残業時間が80時間から90時間に拡大していた事実がありました。
これ自体は36協定の更新に伴って改定されたという話なので法令違反ではありませんが、残業時間の削減への取り組みが効果を発揮していないことに変わりはありません。
このとき問題視されたのは、ユニオンとの交渉の席において、人事総務課長が「ドライバーの時間外労働の上限は変わっていない」と回答したこと。上限は80時間から90時間に拡大されていたわけですから、事実と異なる回答だったと言えます。
人事総務課長は意図的に虚偽の発言をしたのではなく、36協定で定められた時間を知らなかったのです。社内改革の意識が浸透していない管理職もいるという好例でしょう。
このように、すべての現場で残業時間が削減されたわけではありません。いっそうの改革の推進が期待されます。
まとめ
皆さん、いかがでしたか?
ヤマト運輸の長時間労働問題はまだ完全に解決しているとは言えないものの、会社として状況の改善に取り組んでおり、社員が働きやすい環境を整えるべく制度づくりを進めているのは間違いないようです。
2~3年後には労働環境がかなりよくなっているのではないかという現場の声もありますから、数年後に期待したいところです。